遺言書の書き方シリーズ | エンディングノート~人生の最終段階における~

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皆さんこんにちわ。

行政書士、ケアマネジャ-の坂本です。

「人生の最終段階における」

何やら重苦しいタイトルが出てきましたが、今回は2021年4月に改訂された介護保険から一つのキーワードをお借りして、皆さんと一緒に「人生の最終段階」について考えてみたいと思います。「介護保険は高齢者のものだ。若い世代には関係ないではないか」と思われた方、介護保険は何歳から利用できるのか?40歳からでしたね。そして介護が必要な方を支えるのは家族であり若い世代です。「人生の最終段階」は本人だけでなく、近しい方全員に関わってくる言葉なのです。

介護保険改訂

今回の介護保険改訂には「看取りへの対応の充実」として、以下のような一文があります。

「看取り期の本人・家族との十分な話し合いや関係者との連携を一層充実させる観点から、基本報酬や看取りに係る加算の算定要件において、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容に沿った取組を行うことを求める。」とあります。

少し専門用語も入っていますがこの一文がエンディングノートとどう関わってくるのか。その前にこの最終段階に直接深く関わってくる「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」という言葉をもう1度確認したいと思います。「初めて聞いた」という方は、この際覚えておくとよいかもしれません。

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)

厚労省のHPにはACPの説明にこうあります「人生会議してみませんか?」

ACPとは、将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、患者さんを主体に、そのご家族や近しい人、医療・ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、患者さんの意思決定を支援するプロセスのことです。(公益社団法人 東京医師会HPより)

昨今、超高齢社会においてこの「ACP」という言葉がよく聞かれるようになりましたが、そもそもではACPが重要視される背景には何があったのでしょうか?

「歴史から学ぶ」ACPが誕生した背景を振り返ってみましょう。

ACPはアメリカの医療界で誕生しました。

米国医師会においてACPとは「患者が自分で意思決定できなくなった場合の将来的な医療について、医師・患者・家族または代理意思決定者間で継続的に話合うこと」と定義されています。近い内容を示すものとして「AD(アドバンス・ディレクティブ)」があります。これは患者、あるいは健常人が判断能力を失った際に自らに行われる医療行為に対する意向を前もって示すこと、とあります。そしてこれを文章で示したものが「LW(リビングウィル)」ということになります。

AD(アドバンス・ディレクティブ)

ADは1970年代アメリカで国を挙げて推進されてきましたが、その結果を検証したデータは予測と反していたそうです。ADを聴取しても、終末期患者の50%が心肺蘇生や人工呼吸器の使用など望まない治療を受けていたこと、終末期患者の希望を医療の内容に十分に反映できなかったことなど、終末期ケアの改善には役立たないとする報告が明らかになりました。何故でしょうか。その理由として事前にADの内容や背景、理由について医療従事者と患者の間で十分に話合われていないことが要因として考えられました。

つまり資料や背景から読み取ることができるACPの特徴は「患者一人ではできない」「話し合いのプロセスを重視している」そして「決断の裏にある患者の価値感を重視している」ことが分かります。

ACPが誕生した背景には、患者・家族・多職種間で話合い「共有する」というプロセスの重要性があったのです。

「話し合う」そして「プロセス」

話を冒頭の一文に戻します。今回の介護保険改訂にせよ、ACPにせよ共通して何度も登場する言葉がありました。それは「話し合う」そして「プロセス」という言葉です。

ここで重要なのは「結果」という言葉は1度も登場しないこと、つまり人生の最終段階においては「延命治療がいいか悪いか」「胃ろうをつける・つけない」「点滴をするべきかどうか」は論点ではなく、AD重視という過去の失敗も踏まえ、ただ本人・家族や近しい人、医療介護関係者と話し合いをしましょう、その過程・プロセスが大事なのだと伝えていることが分かります。

人生の最終局面においては、つい「どんな治療が正しいのか」「延命治療はすべきかどうか」など、とかく治療方針がクローズアップされがちです。

結果を生み出すプロセスが大切

エンディングノートにしても書くか書かないか、またどんな言葉を書くかは、一連のプロセスを経たうえでの「結果」でしかありません。大切なのはその結果を生み出すまでに「誰とどう話し合ったか」「どれだけ話し合ったか」「どれだけ考えたか」そのプロセスなのです。

そして厚労省HPにはポイントとして「本人の人生観や価値観など、できる限り把握すること」とあります。その人の人生観や価値観など専門職が聞き取りをしたところで把握できるものではありません。他愛もない普段のやりとり、会話、意見交換から「この人の価値観はここにあるのか」とようやく見えてくるものではないでしょうか。この人生観や価値観の上に本人がどうしたいかという「本人の意思」が成り立つのではないかと思います。

人生の最終段階における。必要なものは専門的な知識や経験ではないのです。